その天女は「つまり私の正体は■■・・・・・・みたいな?」と首を傾げた。

62,215
閲覧数
4,319
いいね数
4,622
ブックマーク数
12,119
文字数
説明
皆様、GWはいかがお過ごしだったでしょうか。私はそんなもんなかったです。トホホ………強く生きようね………
※某漫画とのクロスオーバーです。
※クロスオーバー先はタイトルが答え。昔N●Kでやってた卍解しない方の死神アニメです。
※いつもの通り捏造と妄想しかないです。
※いさっくんの命が危ないシーンがありますが爆速で生きかえりますので安心して下さい。
※以上読了後の責任は取りかねますため地雷の気配を感じた方はブラウザバック推奨。
※追記※クロスオーバー先の原作タグつけて下さった方いらっしゃったのですが夢小説であることを鑑み削除させていただきました。
※某漫画とのクロスオーバーです。
※クロスオーバー先はタイトルが答え。昔N●Kでやってた卍解しない方の死神アニメです。
※いつもの通り捏造と妄想しかないです。
※いさっくんの命が危ないシーンがありますが爆速で生きかえりますので安心して下さい。
※以上読了後の責任は取りかねますため地雷の気配を感じた方はブラウザバック推奨。
※追記※クロスオーバー先の原作タグつけて下さった方いらっしゃったのですが夢小説であることを鑑み削除させていただきました。
本文
※某漫画とのクロスオーバーです。
※クロスオーバー先はタイトルが答え。昔N●Kでやってた卍解しない方の死神アニメです。
※いつもの通り捏造と妄想しかないです。
※いさっくんの命が危ないシーンがありますが爆速で生きかえりますので安心して下さい。
※以上読了後の責任は取りかねますため地雷の気配を感じた方はブラウザバック推奨。
[newpage]
ひらりひらり。
風に舞い木漏れる光に、[[rb:かさね > 、、、]]は目を覚ました。
「───ああよかった天女さま、気がついたのですね。」
さっきまで、確かに通い慣れた下校路にいた筈だ。
しかしなんともみょうちきりんなことに、放課後の茜色だった筈の空は目の覚めるような青に、アスファルトはふかふかした森の草地に。そして電信柱とアパートの群れは生い茂った木々へと変わっている。
「変な服だね・・・・・・えっと、忍者みたいな?」
極めつきは、そんな住宅街にしては自然豊か過ぎるそこへいつの間にか寝転んでいたかさねを覗き込む、見覚えのない少年だった。
緑色っぽい着物のような、それにしてはシュッとスマートな動きやすそうなものを着ている。寝起きのぼんやりとした思考で思ったままのことを口にすると、十五、六の、つまりかさねとそう変わらなそうな少年がちょっと驚いたような顔をして、それから苦笑した。
「僕らからしたら、天女さまの方がよっぽど変わったお召し物を着ていますよ。」
「そうかなあ。普通に高校の制服だけど・・・・・・ていうか、あれ?羽織がない。」
「羽織ですか?」
「うん。」
天女というのは、察するに自分のことか。なぜ彼はかさねを天女などと呼ぶのだろう。
不思議に思いながら首を傾げつつ、起き上がる。ぱっぱと髪や背中についた木の葉をはらって、そこでかさねは自分がブレザー制服の上に纏っていたとっておきを失くしていることに気がつき、狼狽えた。どうしよう、知らない内に知らない場所へ行ってしまったとしても、あれさえあればどうにかなったのに。
「どっかへ落としちゃったのかな。君、近くで見なかった?」
見渡してみるが、近くにそれらしきものはない。代わりに運よくすぐ傍へ落ちていた黒猫のキーホルダーのついたスクールバッグを見つけほっと息を付いた。急に見覚えのないところに来て不安だったけど、良かった。これで助けが呼べる。
「ところで、天女さまは僕のことをご存知ではないのですか?」
「うん。ごめんなさい、会ったことあったっけ?」
チャックを開け、学生証と定期券。そして携帯電話を取り出した・・・・・・が、圏外である。
「え───?」
「すまーとふぉん、とやらはお使いになれませんよ。天女さま。」
しかも、圏外という表示をした後不規則に揺れた液晶は、そのままブツリとブラックアウトした。電源を何度も押してみるが変化はない。
呆然とする己へ対し、静かな口調で言った少年に「あなた、何者なの・・・・・・?」とかさねは警戒を高めた。
「僕は善法寺伊作。忍術学園の生徒です。」
天女さまには、僕と一緒に学園へ来ていただきます──────。
そう言い、目を細めた得体のしれない栗毛の癖ッ毛の少年を、かさねは胸元でギュウと手を握りしめ見上げることしかできなかったのだった。
[chapter:かさねという天女のお話。]
******
[newpage]
「なーんてこともあったねー。」
忍術学園には天女が現れる。
五百年ほど先の未来から吉凶のいずれかを携えこの地へ舞い降りる、正体の知れぬ娘たちが現れる。
「いや本当に、あそこからよくここまで仲良くなれたよね・・・・・・。」
で、そんな[[rb:天女 > 、、]]たちのうち一人。
何番目かに裏裏山へ現れたのを、偶然薬草摘みに出ていた善法寺伊作に保護された天女───かさねという名前の少女は、ぽわっとした顔で「ねー。」と相槌を打った。
縁側に並んで座り、ぷちぷち薬草を仕分けながら雑談へ花を咲かせている二人の様子は、傍から見れば長年のお友達のような、年を取った猫同士が日向ぼっこをしているような長閑さがある。
「あの時の伊作くんなんだか怖かったし、その上タイムスリップしているし。思えば結構大変だったね。」
「簡単に話をまとめると確かにそういう塩梅なんだけど、本当にかさねさんって度量が違うよね・・・・・・。」
がしかし、ここへ至るまでそれなりの紆余曲折を経ていることを(身をもって)知っている伊作は、「今はお友達だから。」と笑うかさねに本当にどっしりしてるなあと感嘆した。主に肝っ玉が。
******
サテ、忍術学園には天女が現れる。タイムスリップしてきた身寄りのない少女らを、便宜上そう呼んでいると言っても良い。
天女は基本的に物知りだ。未来から来ただけあって様々な知識を蓄えているし、中には伊作をはじめとする忍術学園の面々についていやに仔細に知っている者もある。つまるところ、当人がどんな人物であれその存在は歩く爆弾。あらゆる意味で危険なのだ。
故に天女を発見した場合、忍術学園は原則保護することにしていた。大抵の天女は武芸の心得もなにもないし一月もせぬ内に姿を消すので、世話代以外はさしたる問題にならない。
「かさねです。暫くの間になると思いますが、よろしくお願いします。」
そして、そうでないケース。さしたる問題になる天女の場合は、天へとお還り頂く手筈となっていたが。
幸い[[rb:かさね > 、、、]]と名乗った齢十六になるという娘は前者であり、学園側の指示にも二つ返事でよく従い、更には気立ても良かったことからすぐに敷地内を出歩くこと、また細々とした雑事をこなすことを許されていた。
「天女さま、どこへ行く心算です?」
とはいえ忍術学園の外へ出向くというのなら、その限りではない。
何度でも言うが彼女ら天女は機密情報の塊である。易々外部へ行かれては困るし、何より当人たちにこの時代この世界で生きる力がない。
「善法寺くん。実は、私が倒れていたという場所へ行きたくって。あ、出門票はちゃんと書いてきたよ。」
「本当だ・・・・・・じゃなくって、裏裏山は天女さま方の足で歩くには危険ですよ。険しいし、毒草や毒虫もいます。」
「そうなんだけれども、どうしても行かないと。」
いつになく強情なかさねに伊作はそれはどうして、と訊ねた。
「落とし物を探しに行きたいんだ。」
「落とし物ってもしかして、出会った時に言っていた羽織のことですか?」
一応探したがそれらしいものはなかったと伝えた筈である。が、かさねは珍しく憂い気な顔をして「うん。」と首肯した。
「とっても大切なものなんだ。絶対に見つけないと。」
これは梃子でも動かぬ。そう判断した伊作は、「そういえば、薬草を摘みに行くところだったんです。」と溜息をついた。
「良ければ、一緒にいきませんか?」
「!いく。」
・・・・・・思えば、伊作がそんな申し出をしたのが悪かったのであろう。
「善法寺くん、頭上から大きな岩の塊が。」
「落石ですねえ!危ないですから避けてよけて!」
「善法寺くん、前方からヌーの群れと同じ圧力のイノシシの大群が。」
「わああー!天女さま、天女さま逃げて!」
「これどこかで見たことがあるような・・・そっか、もののけ姫だ。」
「スッキリした顔をしているバヤイではなく!」
「善法寺くん、凄いよ。文句なしの土砂降りだ。さっきまで晴れていたのに。」
「すみません天女さま・・・・・・もしかしたら僕、いつもより不運な日なのかも・・・・・・。」
山の中の洞窟にて。
雨宿りをしながらびしょ濡れになった裾を絞っていると、かさねが「それは見れば分かるけど。」と不思議そうに首を傾げた。
「いつもよりってことは、普段から不運なの?」
「そうです。というか、保健委員全体が運がなくって・・・・・・ついたあだ名が不運委員会。」
「不運委員会。」
「因みに僕個人のあだ名は不運大魔王。」
「まあ。なんて不名誉な。」
そういえば、彼女は事情を知らぬのであった。と独り言ちながら口元を押さえてハワワとしているかさねへ苦笑いする。なんだか新鮮な反応であった。
「・・・・・・ところで、羽織ってどんなものなんです?」
することもなし。かといって話すこともなし。
暖をとるにも火種がなく、「寒いね。」「濡れてるもんね。」などとぽやっとした会話をしていた伊作は、ふと訊ねた。それに対しかさねは「普通に黒くって裾に赤い模様が入っているのだよ。」と答える。
「それほど大事になさっているということは、もしかして何か由縁のある品なのでしょうか。」
「別に、古着屋さんで買ったB級品だし。」
「あっそうなんだ。」
「でも初めて脱走した動物・・・・・・を、集めるバイトで稼いだお金で買ったものだから、思い入れがあるんだよね。」
なかなかアグレッシブなアルバイトをしていたんだなあ、と思いながら伊作は相槌を打った。
「というか、善法寺くんも皆も別に敬語じゃなくっていいのに。」
「いやあ、年上ですしそういうわけには。」
「そう?お世話になってるの私の方なのになんか申し訳ないような・・・・・・あ、あとずっと聞きたかったんだけど。」
冷えた手を揉んでいたかさねが、不意に伊作の方を見て小首を傾げた。
「天女って、いったい何の───」
「・・・・・・すみません天女さま、ちょっとお静かに。」
途中で微細な振動を感じた伊作は、かさねの言葉を遮った。かさねも無言でじっと地面を見下ろす。
ズズン。
「揺れてる?」
「・・・・・・揺れてますね。」
ズズ、ズン。ドドドドドドドドド。
「善法寺くん、なんと地震と土砂崩れのダブルパンチが。」
流石に答えている余裕はなかった伊作は、呆気にとられているかさねの膝裏と背へ手をやると担ぎ上げ、脱兎のごとく逃げた。
幸い山の傾斜の一部、小規模であったことが幸いしてしこたま泥んこになった上、普通に遭難して二日ほど無断外泊した意外の被害はなかった・・・・・・なんとも様々な出来事が圧縮された二日間であったが、その件についての詳しい話は割愛するとして。
「貴様、伊作に何をした!」
「何もしてないけど。」
「なんだと!?」
「待って留三郎、誤解っ!かくかくしかじか!」
その後。
組まれていた捜索隊の一人───当然と言えば当然にいきり立ちかさねへ食って掛かった同室に、伊作は慌てて縋りついた。パペットをぱたぱたする。安心してくれいつもの不運だ、いつもというにはちょっと大事になったが。
「なんだよ。俺はてっきりまた・・・・・・いきなり怒鳴ってすまん。」
「ううん。私こそ助けられてばかりで、何かできたのなら寧ろしてあげたかったくらいだもの。」
歴代天女によって引き起こされた惨事を思い出していたのだろう。
ハーと肩を落とした留三郎に、「不運大魔王と呼ばれるだけはあるよねー。」とかさねが何故だか関心したように頷いた。尚、年上とはいえ堅気の少女にそこまで言わせてしまった事実に伊作は情けない顔になった。
「巻き込んでごめんよ、かさねさん・・・・・・。」
「気にしてないよ、伊作くん。」
「おい待て、この二日で何があった。」
マ、そんなわけなので。
ハリウッド映画なら結婚してるレベルの(生死の危険という意味で)濃厚な二日間を過ごした二人が友人になるのは、ある意味当然の流れだったわけなのである。
[newpage]
最初に天女に出会ったのは一年生の時だ。
色目を使うこと以外に能のない性悪。でも妖術を使ってこなかっただけまだましで、何の力もない彼女は学園の裏手の山であっさり事故死した。
以降幾人もの天女と関わってきたが、総じて言えるのは妖術を使う天女が厄介であるということである。いつもは優しい先輩、先生たちが途端邪険になり、禁じの筈の色恋肉欲に溺れてしまうのだ。
また、籠めておけば害はないとはいえ不気味なのは、いやに仔細にこちらのことを知っている天女だ。好き嫌いもちょっとした癖も、先生方も知らないような友人同士の会話の内容も言い当てられる。アニメとやらで見たと言うが、非常に気分が悪い。
「かさねです。十六歳です、よろしく。」
そんなわけなので、食満留三郎は[[rb:かさね > 、、、]]と名乗った新たな天女のことも、はじめ快く思っていなかったのだ。
「食満くん、どうしたの?」
「・・・・・・天女さま、最近伊作のやつと妙に仲良くありませんか?」
それが件の不運なる遭難事故を経てから、無二の親友である善法寺伊作と下の名前で呼び合う仲になってしまったのだから、そりゃあ面白いわけがないってものである。
留三郎の言葉に(伊作に頼まれたという)包帯製作の雑事の手を止めたかさねが、瞬きをした。そしてムスッとへの字に曲がった留三郎の顔を見て、ふふっと笑う。
「・・・・・・嫉妬?」
「はああ!?違いますよッ!」
「大丈夫だよ。私食満くんから伊作くんとったりしないもの。」
「だっからそういうのではなく!!!」
「伊作くんの一番のお友達はきっと食満くんだよ、心配しないで。」
加えて微笑まし気に、年下に(実際そうなのだが)するように宥められてしまえば立つ瀬がない。噛みつくにも噛みつきにくく、留三郎は「仲良しさんなんだねー。」とのどかに笑うかさねにガシガシ頭を掻いて、その場に座った。
放課後の医務室、委員長である伊作が忍務にて不在の部屋は静かだ。不運を起こす者がいないというのもあるし、偶々患者がないというのもあるが。つまり、他人に聞かれない話をするには都合がよいのである。
「私は伊作くんのこと、とても優しくて良い子だって思っているよ。その内恩返ししたいな。」
けれども邪気なくそう先回りされてしまえば、それ以上のことは追及しづらいというものだ。
(・・・・・・まあ別に、色恋かというと雰囲気が違うんだが。)
友人というにも空気が違うんだよなあ、と親友とかさねを取り巻く雰囲気を思いながら留三郎は独り言ちる。
それを保健委員の一年坊主らは「なんだか暇な日の父ちゃんと母ちゃんみたい。」「ロマンスでサスペンスゥ~」なーんて言っているのだが、まあちょっとこう、なんていうか。うん。認めるのが癪というか。
『え?僕とかさねさんが?』
ないない、留三郎ったらもう。
と笑う伊作の自覚皆無の様子に二言三言、否五言くらいは物申したい気持ちがあるわけで───と某五年後輩のようにぐちぐち悩んでいた留三郎は、フト忍者として六年鍛え上げた感覚が察知したものに、顔を上げた。
「・・・・・・なんか、騒がしいな。ですね。」
「敬語いいって言ってるのに。怪我人かなあ。」
留三郎より少し遅れて、焦ったような複数の人の声が医務室へ近づいてくるのを聞き取ったかさねが、「私新野先生を呼んでくる。」と立ち上がる。
「いや、俺の方が早いから天女さまはここに。」
「ありがとう・・・っていうか前々から気になってたんだけど、その天女さまって、」
「留三郎!!!」
何がしか言いかけたかさねの言葉は、同級生の怒号にかき消された。
と同時にどたどたという足音がして、医務室の戸が蹴破られるように開けられる。むっと迫った鮮血のにおいと視覚を埋め尽くす赤色に、はく、と己の口が動いたのが分かった。
「い、さく?」
「留三郎、落ち着いて、聞け。」
伊作とともに忍務へたった筈の立花仙蔵が、息を切らしてそこにいた───正確には彼と、ぐったりと力を失い、ここへ来るまでの間に合流したであろう他の六年らに支えられた善法寺伊作が。
「いさくが、息をしていない。」
考えるより先に駆け寄り、身を裏返すようにして親友を板目へ横たえた。脈をとる。冷たい、固い。呼気を確認する。何の震えもない。嘘だ。そんなはずがない。
「どうして、」
「分からない。後は撤退するだけの作戦だったんだが、何故か伊作が引き返して、撃たれてしまって。」
そんな大した忍務ではなかったはずだ。こんなの楽勝だよ、と勝気に言っていた親友の姿が過る。仙蔵の苦し気なすまないという言葉が、遥か彼方から聞こえて来るようで、留三郎は膝から崩れ落ちた。
「───これ、私のだ。」
その時、不意に。
人を呼ぶでもなく、ただただ茫然と血塗れの伊作が握りしめていた羽織を手にしていたかさねが、思わずといったように呟いた。何を言っているのか分からず、「は?」と留三郎は言葉を裏返す。
「私、ここに来た時に失くしてしまって、ずっと探してて。見つからなかったからもう諦めかけていた・・・・・・伊作くん、覚えてくれていたんだ。」
目を見開いたかさねが、血の気の失せた顔をして医務室の床へ横たわる伊作の傍らへ膝をつく。
「ッ伊作は、城主が流れの商人から買い取ったというその品を手にするために、無茶を。」
「そうなの。そんなの、忍者に向いていなさすぎだよ、伊作くん。」
耐え切れずに溢されたという風な仙蔵の言葉に、クラリと眩暈がする。なんたるお人好しか、否。しかしそれが伊作だ。
故を聞いたかさねも悲し気に目を伏せる。そしておもむろに手を伸ばし、伊作の顔に触れた。血の滲んだ額へ触れ、蒼白い頬を撫でて辿るように首裏へ手を差し込む。
「───お礼を、あなたにしなくちゃね。」
そして少しの力を込めて、持ち上げた頭。その口元へ身を屈ませた。
「何を───ッ」
既に息をしていない伊作のそれに、天女のソレが重なる。そうして、かさねは確かに「ふう。」と息を吹き込んだ。
突然のかさねの行動に、留三郎は慌てて彼女の肩を掴み剥がそうとした。ほんの一瞬の口付けを終えたかさねは、大人しくその力へと従う。なんかしょっぱい、と血のついた唇を拭うかさねにいや何してんだと問い質そうとした留三郎は、耳朶をうった小さな呻き声に瞠目した。
「うっ・・・・・・」
「い、伊作!!?」
ふるり、と固く閉じられていた伊作の瞼が震えている。そして───[[rb:その眼を開けた > 、、、、、、、]]。
思わず身を乗り出した留三郎は信じられない気持ちで親友の顔を除きこむ。小さく乾いた口唇が震えて、「とめ、さぶろ?」と己の名が紡がれた・・・・・・生きている。伊作が生きて、否、生きかえった!
「ありがとう伊作くん、私この羽織がないと飛べないから。とっても助かったよ。」
「こ、こは・・・・・・?どういう、」
「取り返してくれて、すっごく嬉しい。」
混乱しているのか、或いは意識が戻ったばかりで朦朧としているのか。
よく分かっていないように視線を彷徨わせた伊作へにっこりと微笑んだかさねが、手にしていた黒い羽織を広げた───夜空のような墨色に、牛車の車輪のような赤い模様の描かれた、美しいが不思議な意匠の羽衣であった。
「じゃあね、私急ぐから。後でね。」
しかし中でもいっとう不思議であったのは、その羽織へかさねが袖を通した瞬間。
スウッと裾のあたりから、彼女の姿が透けていったことだ。
「あ、───」
と小さな声をあげたのは一体誰であったか。
しかしそんな驚きを拾い上げることなく「[[rb:またね > 、、、]]。」と笑ったかさねは、ふうわりと履物もはかずに医務室の縁側を飛び降りた。止める間もなく、躊躇もないその行いに手を伸ばすより先。かさねの体が花弁が舞うように浮き上がる。
羽織が手元へ戻ったことが、心底嬉しいのだろう。そのまま宙で二三度、袖をひらめかせながらひらりひらり回ったかさねは、じき空へとけるように透明になり───やがて、消えた。
「本当に、天女だったのか・・・・・・。」
後には呆然とした留三郎の呟きと、柔らかな風の残るばかり。
そうやって、その少女は幻のように跡形もなくいなくなってしまったのであった。
[newpage]
───羽衣伝説、というものがある。
地上へ舞い降りた天女が羽衣を脱ぎ、人間と交流する物語だ。多くの天女は羽衣を失くしてしまうか、男に隠されるかして泣く泣くその妻となるが、やがて羽衣を見つけると再び天へと帰ってしまう。経緯にはバリエーションは多くあるものの、その辺りは判を押したように決まって同じ、そういう説話である。
******
「だから、彼女も天へと帰ったんだろう。」
書物を閉じ、そう言ったのは長次だった。それへ対して、小平太が「しっかし本当に本当の天女だったとはなー。」と後頭部で腕を組みながら壁へ凭れかかった。
「伊作のことだって生き返らせちゃうし。」
「あの時、伊作は完全にこと切れていたものな。」
「奇跡の御業など幾らでも伝え聞くが、実際目にすると言葉も出ん。」
「というか本当になんともないのか、伊作。」
「すこぶる健康だよ。」
何度も言ったじゃないか、とは気持ちが分かるゆえ言えない。そのため、未だに心配そうに見つめて来る留三郎に伊作はただ苦笑した。
あれから───善法寺伊作が蘇生してから、もしくは天女・かさねが姿を消してから既に半月が経過していた。
致命傷を負い一時は心音も耐えていた伊作は、かさねの手によって息を吹き返し、以前通りに暮らしている。以前の、かさねや天女のいない忍者のたまごたちの学びの園で、日々を送っている。
『ごく普通の心根の良い娘と思っていたが・・・・・・真、神仏に使わされた使者であったのやもしれぬのう。』
温もりの戻った、冷え切っていた筈の伊作の手を握りしめ幾度か撫でさすって後。学園長・大川平次渦正は良かった良かった、と呟いた。伊作は何故だか泣きたくなって、されどぐっと唇を噛みしめて堪えた。
「ところで、伊作。かさね殿の私物だが、まだとってあるのか。」
「うん。取りに戻って来るってことはないだろうけど、恩もあるし。」
仙蔵の言葉に、忍たま長屋の一室。六年は組の部屋の隅へ取り置きされている、黒猫のぬいぐるみのついたバッグを見やる。
学園長の指示により、天女たち用の離れの部屋───かさねの使用していた一室は天女が去る度に(或いは天へ還す度に)整理され、私物の類は始末されることになっている。ただあの後、羽織以外の荷物をそっくりそのまま置いて消えたかさねの荷、スクールバッグや学生証等の持物はどうにも捨てるのが忍びなくって、まだ焼き捨てずに残してあった。
「ふうーん?」
「ちょっと、なんだいその胡乱そうな目は。」
「そういえば、恋仲でもないのに躊躇がなかったなと思ってな。」
「馬鹿だな、医療行為だろう。」
「蘇りの術って医療行為か?」
「まぜっかえすなってば。」
文字通りかさねに息を吹き込まれたという口唇を押さえ、伊作はじっとりと揶揄う同輩たちを睨んだ。
本当にそんなんじゃないって言っているのに、第一もう既にいない少女と今からどうこうなるわけでもないというに。
「だから、僕とかさねさんは普通に友人だったんだってば!」
「まあまあそうムキになるな。」
「そう言えば数日夜を明かしたことがあったな。」
「遭難!遭難してただけ!」
「もそ。」
「何があったんだ、ちょっと話してみろよ。」
「あーもう、ああ言えばこう言う!かさねさん助けて!」
「はーい。」
・・・・・・。
男連中のやいのやいのに、突如として鈴を転がすような「また不運?しょうがないなあ伊作くんは。」なる声が混じる。完ッ全に止まった時の中、全員の視線がそっと発信源へと向けられた。
「?あれ、今私のこと呼ばなかった、」
「どぇえええええええええッ!?」
「ってわわわわ。」
いったいいつの間にそこにいたのか。
突如部屋の真ん中へ現れた、三つ編みの白髪に赤い花の髪飾り。そして例の黒い羽織を畳んで膝へ乗せた少女───天女もといかさねその人に全員絶叫を上げた。予想外の反応だったのだろう、エッエッと戸惑ったような視線をきょときょとさせたかさねがそっと一番近くにいた伊作の影へ隠れる。
「今来ちゃ駄目だった?」
「いやっちょっ・・・本物?」
「偽物がいるの?」
疑問へ対して返ってきたお返事に、伊作はアッこれかさねさんだと独り言ちた。このちょっとズレてる感じ、間違いない。
「お前ッどうやって部屋に入っ・・・・・・っていうか、元来たところへ帰ったんじゃなかったのか!?」
「そんな簡単に帰れないよ。タイムスリップしちゃったんだから。というか、だから忍術学園へお世話になってたのに。」
なんでそんなこと聞くの?という顔をしたかさねに文次郎が「だとしてもあの流れで一月以内に普通に現れるわけあるかい!」と怒鳴る。まあ確かに昔話であればめでたしめでたしで締めくくられる感じだったが、残念ながらこれは物語であってもおとぎ話ではないので、かさねは「私またねって言わなかったっけ?」と伊作を仰いだ。
・・・・・・そういえば、言ってはいたかもしれなかった。
「ごめんね。急いで行かないといけないところがあったから、言葉が足らなかったかも・・・・・・はい、というわけで伊作くん。サインお願いね。」
「なんだい、これ。寿命譲渡同意書?」
「うん、あの世の余命管理センター発行の公式書類だよ。この時代って事前予約制じゃないから、待合室で凄い待ったんだよね。」
二週間もかかっちゃった、と言うかさねに伊作は「あの世の余命管理センター。」とオウム返しした。それに「うん。」といつものぽわっとした顔のままかさねが頷く。
「ほら、私あの時伊作くんの同意をとらずに勝手に生き返らせちゃったじゃない?そういった場合って一定期間内に譲渡者と受取人双方のサインが入った同意書をあの世のお役所に提出しないと厳罰対象になっちゃうんだ。もちろん生き返りたくなかったんだったら全然大丈夫だし、私が責任をもってあの世にご案内するよ。罰則も甘んじて受け入れるんだけど・・・・・・。」
「いやまずあの世って役所とかあるんだ!?」
「あるよー。因みに罰則内容は罰金もしくは五年から十年の給与、賞与のカット。」
ここに来て(短い付き合いの中でいっとうの)途轍もなく深刻そうに言ったかさねが「もちろん、伊作くんがサインをしたくないんだったら・・・・・・甘んじて受け入れるけど・・・・・・。」と何故だか同じことを二回言う。
なんなら悔しそうにくっと拳を握りこんでいた。全然甘んじられなさそうな態度である。
「書く、書くけど・・・・・・天女ってそういう仕事もするものなんだ。」
さすがに、折角拾った命を放り出したくはない。
促されるがまま筆記具をとった伊作は、同意書に名を書きながら苦笑いした。ただでさえ[[rb:本物 > 、、]]の天女に出会ったというだけでも驚きなのに、なんだか情報量が多かったので。
が、しかし。
「あ。あとまだ言えてなかったけど、私天女じゃないよ。」
はい、お確かめください。ご記入いただきありがとうございます、と戯けてペコペコ頭を下げあっていたかさねは、伊作の言葉をあっさりと否定した。
「地震が起こったり土砂崩れが起こったり、タイミング悪くてなんだかんだ訂正できてなくて・・・・・・そもそもどうしてみんな私のことを天女って呼ぶの?」
「いや、だとしたらなんなんだお前。」
真顔で言った留三郎に「普通の女の子だけど。」とかさねが答えた。無理がある。大分。
少なくとも飛行能力と蘇生能力を持つ娘は普通の定義には当てはまらない。と、言うことに四方から胡乱な視線を向けられたことでかさねも思い至ったのだろう。言い訳がましく「私は現世に迷っている霊魂をあの世へ導く、そういった仕事を時々やってるだけの、あの世のお使者のような、人間っぽいようなそうじゃないような女の子なだけだから・・・・・・。」と滅茶苦茶あやふやに付け足した。
「それを[[rb:だけ > 、、]]と言い切るのは難しくないか。」
「改めて説明しようとするとむつかしいなー。」
思わずツッコミを入れた仙蔵を他所に、腕組みをしたかさねがウンウンと悩みだすこと暫く。ようやく適切な言葉を見つけたらしいその少女は、ややあってから───
[chapter:「つまり私の正体は死神・・・・・・みたいな?」]
───と、小首を傾げながら言ったのだった。
[newpage]
◆六道かさね
天女だけど天女ではない人間みたいな死神みたいな。りんさくの子かもしれないしそうじゃないかもしれない。名前の由来は桜襲。
黄泉の羽織はあの世リサイクルショップで格安で売ってたB級品で、赤毛の彼の所持品ではない。羽織を取り返してくれた伊作が代わりに死んでしまった上、タイムスリップ中で所持金と稼ぐアテがなく某おねえさんのような不正もできなかったので、自分の寿命を譲渡することにした。
のであの世余命管理センター発行の寿命譲渡同意書にサインを貰うだけで済んだという裏話がある。どんぶり勘定で半世紀分くらいごっそりいったのでこの世界線のいさっくんは長生き。
※クロスオーバー先分かんなかったってコメントもいただいたので一応書いときますが、死神は死神でもるーみっく●ーるどの小銭で除霊する貧…な死神が主人公の漫画です!あんまり要素出せなかったもんね!ゴメンヨォ!
コメント
コメントはありません。